ネットの普及によりだれでも情報発信ができるようになった。さらにtwitterの登場で、場合によっては個人がマスメディア以上の情報伝播力を持つ可能性だってある。同時にそれは、情報によって他人の名誉を傷つけてしまう危険性が高まることをも意味する。そんな時代に、裁判で争われる名誉棄損について理解を深める必要があるのではないだろうか。
本書はその名の通り、名誉棄損を解説した新書だ。過去の7つの判例を軸に、名誉棄損という概念の意味や、その適用範囲、他国の同種の法律と比較しての日本の問題点などを解説している。新書にしては読みにくい部類に入るが、それはおそらく僕のようなずぶの素人が六法全書を開いたときに感じるのと同じものだろう。要は見慣れない熟語が多すぎるのだ。しかしその点は仕方ないのだろう。なるべくわかりやすくなっているように感じた。
一般的にあまり知られていないが、名誉棄損とは情報の内容が真実であれば免れる、というわけではない。公共性と公益性が認められない限り、「その事実の有無にかかわらず」人の名誉を傷つければ名誉棄損罪に該当する。その一方、特に公人の報道などで事実誤認があったとしてもその事実にいきついた綿密な裏付け取材などの「相当の理由」があれば、該当しないこともある(相当性)。本書はこうした複雑怪奇な名誉棄損の概念について、丹念に解説する。また、日本での公人、公的人物という定義の曖昧さ、また相当性の範囲の狭さが報道を委縮させているといった問題点も指摘している。
残念ながら、著者の立場上なのか本書の主眼にあるのは“マスメディア”の表現の自由だ。だが冒頭に書いたようにマスメディア以上に今発達してきているのは、個人メディアであり、これからは個人レベルで名誉棄損の裁判が増える可能性がある。その点で本書は、ネットでの事例に関しては手薄の感は否めない。しかし、入門編としてはうってつけの新書といえるだろう。