著者はカリフォルニア大学バークレー校で美術史学士号を修得した西洋美術史家。
本書は冒頭から読者にこう語りかけます。
「美術は見るものではなく、読むものです」(2頁)。
感動するかどうかといった感性のレベルで(近代以前の)西洋美術を見るというのは、美術を見たことにはならない。それは人間の感性などあてにならず、理性的であることに重きを置いた西洋文明の中で生まれた美術なのだから。
それでは、西洋美術を駆動してきた政治や経済、宗教や社会の歴史をきちんと理解してもう一度なじみ深い美術作品を見つめなおしてみようというのが本書の狙いです。
私は非常に大きな興奮とともに本書を読みました。
美術の歴史もさることながら、高校の授業で習った、そして受験の手段として知識を暗記するにすぎなかった世界史の断片のあれやこれやが、美術史をみつめなおす中で輪郭線も鮮やかに私の中で有機的に結びついていくのが手に取るように感じられたのです。
ドイツが主だった美術史に登場しないのは偶像崇拝を禁じたプロテスタント化によること。(一方で音楽による宗教表現は進んだ。)
北方ルネサンスでは宗教美術の破壊に伴って風景画や静物画の発展が促されたこと。
裕福な市民階級の台頭と(教養のない人でも)分かりやすい絵画の誕生が表裏一体であること。
フランス革命以降に起こった共和制と帝政・王政との目まぐるしい政治体制の転換が、やがて既成概念を崩す印象派という新しい芸術家たちが生まれる素地を準備したこと。
それ以外にも、ここにはとても書ききれないほどの事柄にいちいち膝をうちながら本書を読み続けました。
「です・ます」調の丁寧で平易な文章にも助けられ、古代から近代にかけての美術史を楽しく概観できる一冊となっていました。
著者にはぜひ、続編として20世紀以降の現代アートについても、楽しく知的な美術解体書を書いてほしいものです。