逝去されたばかりの著者の、(一応の)完結を見た最後の作品です。
それだけに、作品を純粋に評価するのは難しいところがあります。
文体、登場人物、構成などは間違いなく「藤原伊織」その人のものであり、レベルは凡百のミステリー作家などを凌駕していますし、著者への余計な思い入れがなくても最後までぐいぐい引っ張っていかれます。
ただ・・・これは無いものねだりかも知れませんが、「テロリストのパラソル」、「ひまわりの祝祭」、短編集「雪が降る」に比べると、失われていく過去への思いという切なさ、主人公がひたすら自己の誇りのために厳しく自分を律する姿、本当は望んでいない犯罪へと走っていく敵=かつての友の哀しさ・・・など、この著者でなければ描けない数々のものは失われているように思えてなりません。
週刊誌の連載、という制限の中では、主な読者層である勤め人の願望(仕事はできるが阿らない、そういう男の価値を理解できる若い女性に慕われる、など)をある程度具現し、業界の内情(今回はコンビニ業界)なども取り込む必要があったのでしょう。その中でこれだけのレベルを維持できるのは流石、という見方もあるでしょうが、物足りなさも正直覚えます。
なにより、軸となる犯行の動機(ネタバレになるので詳しくは書けませんが)が破綻こそしていませんが納得しにくいこと、伏線のいくつかがそれと分かってしまうことなどが残念でなりません。
連載終了後、著者は推敲を進めていたとのことなので、全部が終わっていれば不満の多くは解消されたのではと、叶わぬ期待も抱いてしまいます。著者が誠実に作品に向かい合っていたことだけは確信が持てますので、ファンの方なら迷わず一読を・・・。