第10シーズンのDVDが発売されたのが2008年2月。英国ではすでに第12シーズンのDVDまで発売されているにもかかわらず、日本ではDVDに先立つNHKでの放送すらなかなか始まらず、ポワロ・ファンをやきもきさせてきた。そんな中、ようやく9月13日から、この第11シーズンの放送が始まったのだが、今度は一転、まだ放送時の記憶も生々しい初回放送後わずか3ヶ月という、かつてない超最短期間で、一気にDVD化が実現した。
さて、まず、その第1作「マギンティ夫人は死んだ」だが、私は、このドラマを観ることによって、初めて原作の良さに気付かされた。どういうことかというと、私の記憶の中では、この原作は、多くのポワロ物のうちの普通の一作に過ぎなかったので、放送時、このドラマの予想以上の出来の良さに非常に驚いたのだ。そこで、改めて原作をじっくりと読み直したうえでこのDVDを観てみると、ドラマの方が、登場人物からウェザビイ一家を外して、その役割をイヴ、モーリン、モードに振り替えていること以外は、ほとんど原作に忠実に作られていることがわかり、原作が、実は私が思っていた以上に良く出来た作品であったことに気付かされたというわけなのだ。
「鳩のなかの猫」は、原作と大きく変えている点が二つある。一つは、原作では、第2の殺人事件が終わった後、全体の7割が経過した後にようやく初登場するポワロを、校長の旧知の相談役として、最初から登場させていることだ。もう一つが、第2の殺人事件の被害者ヴァンシッタートをカットし、被害者を別の人物に変更していることだが、これは、その後の結末が変わらないように整合性を上手く取っており、全体的には、原作に忠実に作られている。
「第三の女」は、今シーズン最高の素晴らしい作品に仕上がっている。実は、この原作には、現実にはとても通用するとは思えない相当無理のあるメイン・トリックが使われているのだが、このドラマは、この問題を、人物設定をがらりと変えることによって、実に上手く解消しているのだ。また、ときに本筋から外れ、冗長とも感じさせるところのある原作が、テンポの良い引き締まったドラマにもなっている。大胆かつ見事なリメイクで原作を傑作ドラマに生まれ変わらせたこのテレビ版の底力を称賛したい。ヒロイン、ノーマの病的な内面を見事に演じているジェミマ・ルーパーの好演も光っている。
「死との約束」は、今シーズン中、原作を最も大きく変えている作品だ。お互いがお互いをかばい合う嘘のオンパレードのうえに、最後に明らかとなる決定的な嘘をついていた意外な人物が犯人という原作の複雑な面白さは、完全になくなってしまったが、時間の関係で、原作の忠実な再現は無理だったのだろう。その代わりに、人物設定を大胆に変え、さらには、犯人設定、犯行の動機、殺人トリックまでもを大きく変えて、おまけに、涙を誘う見せ場まで用意しているのだから、これはこれで素晴らしい作品に仕上がっていると思う。
このDVDを観るにつけ、同じグラナダが制作する同時並行の「ミス・マープル」の新シリーズとの、あまりに大きな出来の差を痛感せざるを得ない。一言でいえば、アガサが作り出した2大探偵をリスペクトし、その名声に恥じない、英国を代表するドラマに仕上げようという気構え、気概の差なのだろう。