旅訳シリーズは、ほとんど見開きごとに、解説が入る。大まかに三種類。小説の舞台や、筆者の生地、今も残る記念碑や文学館など、現地に赴いてみたいと思わせる資料がひとつ。また、筆者の思想や生活、人間関係などの情報がひとつ。作品を楽しむための、プラスアルファの情報がひとつ。
わたしは札幌在住で、小樽に赴くのが非常に好きだ。ゆかりの建物や土地と、多喜二の生活や思いなどが重なり、臨場感があった。旅訳は初めて読んだが、良い試みだと思う。既読の作品でも、また違った角度から味わえると思う。
ただ、解説をいちいち読むことで、読書のテンポ感は損なわれてしまい、まどろっこしい感もある。その点は残念。解説として、巻末にまとめてくれてもよかったのではないだろうか。
小林多喜二という人は、拓銀勤務で、労働者階級より、ずっと良い暮らしをしていたのに、労働者のことを思い、安寧な生活を捨て、共産思想と活動にのめりこみ、最後には警察に捕まり、拷問を受け、亡くなった。社会の底辺にいる労働者を思いやり、作品を残すことによって社会を変えていきたかったのだろう。
蟹工船の労働者は、死に至るほどの過酷な労働の中、誰に教えられたものでもなく、労働者の権利に気付き、組合活動の前衛のようなものを発生させていく。小さく灯った希望。
契約社員のわたしも、社員とは名ばかりの時間給での労働者。最短で最善の労働を求められ、それができなければ、会社はクライアントから仕事を取り上げられる。競争により、安い賃金で労働力を売り渡すわたしたち。働いても働いても、給料は少し前の時代の半分ほどで、家族を養えるほどの額には満たず、苦しい生活を強いられている。蟹工船の労働者ほどではないが。
この世の中をよくしていくにはどうしたら良いのだろうか、何か希望はあるのだろうかと、考えさせられずにはいられない。