登録情報
|
持ち時間は各自40時間という当時でも珍しい特別ルールで打たれたこの一局は、名人の入院など様々な理由で対局延期が繰り返され、終局まで半年以上もかかった。それでも名人のこの勝負に賭ける意気込みは、それは激しいものであり、鬼神そのものであったという。生涯を碁に捧げた名人は、しかし碁の世界にしか生きることができなかったため、川端に「一芸に執して、現実の多くを失った人」と悲哀に表現された。しかしそこには単なる悲哀以上の感動と敬意がこめられていると思う。近代化、競争化の波が碁の世界まで押し寄せてくる中、名人は最後の最後まで自分流、名人流を一貫し、「芸」としての碁を極めようと戦った。おそらく彼にはわかっていたのだろう。彼が敗北することは碁における「古きよき時代」の終焉を意味することを。
川端は名人を「一芸に執して、現実の多くを失った人」といったが、むしろ名人にとっては碁そのものが現実の全てであり、彼自身もそれ以上は望まなかったのではないか。それ以上を望むことは彼自身が極めんとした「道」を外れることになるということは、名人が一番よく知っていたはずであるから。
|
この商品のクチコミ一覧
クチコミを検索
|
関連するクチコミ一覧
|
|