日頃、著者が親しんでいるもの。能や仏像、骨董、書画、和歌といった日本の伝統芸術から、庭の草木や花に寄せる思いを綴った随筆の数々。初出が昭和57年(1982年)のものから平成7年(1995年)のものまで、全部で38の文章が収められています。
文章の品のあるたたずまい以上に、ぴんと背筋の張った著者の心意気や、ものの考え方に遊びのあるところ、融通無碍の自在さ、闊達さに惹かれました。ぴしりと言い放つ自己主張の強さが鼻につくところもありましたが、白洲正子という人間の品格がおのずと伝わってくる文章の力は、きっぱりしていて清々しいものでしたね。
なかでも好ましく感じたのは、平成7年初出の三篇(「李朝の白壺」「はさみのあそび」「大人の文章」)と、異形の怖さにぞくりとさせられた「同行(どうぎょう)三人」、在原業平(ありわらのなりひら)の歌の味わい方が素敵だった「日本の伝統」、この五つの文章。ひとつだけ選ぶとしたら、「李朝の白壺」かな。口絵にある白壺「風花」のふっくらとしたやわらかみと、二頁四段の白洲正子の文章が融け合い、風のまにまに吹かれている趣が素晴らしい。掌篇ですが、間然するところのない名品。いい心持ちになりました。