本人もあとがきで書いて(言って?)いるが、升田幸三の「おしゃべり」をまとめた自伝。
風貌と見事なまでにマッチした語り口。強烈な自尊心、嫉妬、子供のような無邪気な喜び方、著者の現役時代を知らないわたしでも、当時棋界随一の人気を持つ棋士だったということが理解できるほど強烈で魅力溢れるキャラクターだ。
わたしは、素人以下のヘボ将棋なので、掲載されている棋譜の凄さがまったく理解できないのだが、そんなことはまったく関係なく、一人の男の自伝として無類のおもしろさを持つ一冊だった。
一つ一つのエピソードが印象に残ったのだが、もっとも驚いたのは223p〜229pに書かれている「GHQ高官の度肝を抜く」だった。このエピソード自体は、「月下の棋士」というマンガで知っていたのだが、あまりにも出来すぎな話だったので原作者の想像の産物だと思い込んでいた。だが、実際にあった出来事だったと知って本当に驚いた。
GHQから「日本の将棋は取った相手の駒を自分の兵隊として使用するので、これは捕虜の虐待ではないか」と問われた升田は次のように反論する。
「冗談をいわれては困る。チェスで取った駒をつかわんのこそ、捕虜の虐殺である。そこへ行くと日本の将棋は、捕虜を虐待も虐殺もしない。常に全部の駒が生きておる。これは能力を尊重し、それぞれに仕事場を与えようという思想である。しかも敵から見方に移ってきても、金は金、飛車は飛車と元の官位のままで仕事をさせる。これこそ本当の民主主義ではないか」
格好良すぎるぞ。升田幸三!