これほど読みにくい本はない。大江健三郎の文章はそもそも読みにくいのだが、英語を直訳したかのような生硬な文体は大江の他の小説よりもさらに顕著であるような気がする。さらに、「壊す人」「村=国家=小宇宙」といったキーワードで表される独特の世界観が何の解説も無しに本の冒頭から展開される。しかも、最後まで読み進めないとこの世界観を理解することができない。本書は大部ということもあり、本書を手に取って読破したのはごくわずかなのではないだろうか。
ただ、辛抱して読み進めると次第に物語に引き込まれて行く。特に半ば以降からは、登場人物や「村=国家=小宇宙」の歴史が暴かれ、目が離せなくなる。6つの手紙によって物語を作るという手法、複数の時代を混然と提示しつつ物語を進めて行く手法、メキシコ、四国、東京、ハワイと舞台を目まぐるしく変えることで物語の普遍性を高める手法が本書ではとられており、大江が前衛的な現代文学の手法に対して貪欲だったことが良く分かる。読破すると、世界観の壮大さに圧倒されてしまう。ここまで壮大な世界観を表現した文学作品はそうないだろう。読み手を選んでしまう小説だが、間違いなく世界最高峰のレベルに達している作品だと思う。