好著『一九七二』に続く著者の年代記(クロニクル)的評論集。(前書は「諸君!」2000年2月号から2002年12月号の連載であり、本書収録の諸論考は同誌2003年6月号から2004年11月号に断続的に連載されている。)個人的には、参着している文献のさわりの部分を対比引用しながら悠々と論を進める坪内氏の叙述方法が好みであり、本書も大いに思考を刺激される好著であった。わけても、「アンティゴネ」を題材に「善き個人」と「善き市民」の相克関係(二元論的思考)について考察した第1編や、バーリン伝を著したマイケル・イグナティエフ(その後、ハーバード大教授からカナダ連邦下院議員に転進)の著作を題材に「市民ナショナリズム」と「民族ナショナリズム」の緊張関係や「愛想づかしの誘惑」に起因する悲劇などを描いた第8編が印象に残ったが、最も読み応えがあったのは、いわゆる太平洋戦争時における平野謙の「傷」即ち彼の戦争協力的言論活動(日本文学報国会)にまつわる人間模様を分析した第2編であった。なお、本書の読み方だが、最初から順に読んだのでは「一九七九年」の持つ含意を把握しながら、各編の理解を進められない憾みがあるので、まず最終編を読んでから、改めて最初に戻るのがよいように思う。(それにしても、坪内氏の本は、一度読むと引用されている書物なども全て読みたくなってくるので、本代が幾らあっても足りなくなってしまうのが(嬉しい)頭痛の種ではある。)