Robert Aldrich の英書 "Gay Life and Culture; A World History" の邦訳である。
極めて興味深い分野を扱っており、古代ギリシア・ローマから現代社会に至るまでのゲイ・ピープルの文化史が多くの図版入りで語られている。
とはいえ、本書には些かの欠点も指摘出来る。
例えば、邦題が『同性愛の歴史』となっているが、これでは「同性愛」を「異性愛」と較べてどこか特殊なものという印象を読者に与えてしまいかねないだろう。
確かに本書(原書)は大半をキリスト教社会にあてて居り、彼らの宗教観では同性同士の性行為が長きに亘って「犯罪」と見なされていたことは紛れもない事実である。
しかし、この種の特殊な偏見を持ち続けた人々は世界史上稀れなケースでしかない。古代オリエント以来、大半の人類は男女両色を極めて当たり前に営んできたのだから。
断る迄もなく「同性愛(homosexuality)」という用語自体、19世紀ヨーロッパで造り出された言葉でしかない。
欧米列強が世界を侵略し、その大半を植民地化した結果、彼ら特有の偏見が「グローバル・スタンダード」として押しつけられてしまった経緯を考えると、やはりタイトルは今少し考慮して貰いたかったものである。
なおまた、翻訳は飽くまでも意訳でなくてはならないのが鉄則である。英文をそのまま日本語に訳したのでは意味が通じにくい箇所が生じて来るからだ。本訳書にも、そうした欠点が幾つか目立っている。 ちなみに固有名詞その他のカタカナ表記は、かなり区々である。明らかな誤訳も散見される(e.g.; p.93の「洗礼者ヨハネ」)。
という訳で、英語が読める人々には是非とも原書を読まれることを、お薦めする次第。とは云うものの、日本語でこの書物が読めるようになったのは、極めて喜ばしい限り。関心のある方々、「西洋人」の性に対する偏見史を知りたい若い世代の人々には、機会があれば一読を推奨したい。