「吉野葛」「蘆刈」共に、非常に良くできた幻想小説的な作品でした。
「吉野葛」では、主人公が取材旅行に吉野の奥に旅をします。それは同時に、同行する津村の紙すく娘への求婚の旅でもあります。
前半は非常に抒情的な紀行文のような文章ですが、後半には津村の祖母の里を探す物語であり、母親の面影を持っているであろう娘への思慕の物語でもあります。
その間に登場する吉野の歴史の物語も含めて、非常に幻想的な雰囲気で話が進みます。
歴史を遡って行く旅、それは、吉野の奥深く遡って行く旅でもあります。
「蘆刈」も、水無瀬川の景色を抒情的な文章で綴るところから始まり、洲で見知らぬ男から興味深い話を聞かされる物語です。
男の語る物語が、これが又、現実とは思えないような幻想的なものです。お遊さんに惹かれて妹と結婚しますが、姉の思いを知る妹は主人公との関係を持たず、姉であるお遊さんと主人公の中を取り持ちます。
そうした微妙な関係の三人の物語で、どこまでが真実なのか解らない幻想的な物語です。
共に、母親又は特定の女性への限りない憧れがベースになった物語です。
両短編とも、短い文章の中にしっかりと内容が収まった秀作です。