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吉野葛,蘆刈 改版 (岩波文庫 緑 55-3)
 
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吉野葛,蘆刈 改版 (岩波文庫 緑 55-3) [文庫]

谷崎 潤一郎
5つ星のうち 4.5  レビューをすべて見る (2件のカスタマーレビュー)
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登録情報

  • 文庫: 172ページ
  • 出版社: 岩波書店; 改版 (1986/06)
  • ISBN-10: 4003105532
  • ISBN-13: 978-4003105535
  • 発売日: 1986/06
  • 商品の寸法: 14.6 x 10.6 x 0.8 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.5  レビューをすべて見る (2件のカスタマーレビュー)
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By ringmoo トップ500レビュアー
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「吉野葛」「蘆刈」共に、非常に良くできた幻想小説的な作品でした。

「吉野葛」では、主人公が取材旅行に吉野の奥に旅をします。それは同時に、同行する津村の紙すく娘への求婚の旅でもあります。
前半は非常に抒情的な紀行文のような文章ですが、後半には津村の祖母の里を探す物語であり、母親の面影を持っているであろう娘への思慕の物語でもあります。
その間に登場する吉野の歴史の物語も含めて、非常に幻想的な雰囲気で話が進みます。
歴史を遡って行く旅、それは、吉野の奥深く遡って行く旅でもあります。

「蘆刈」も、水無瀬川の景色を抒情的な文章で綴るところから始まり、洲で見知らぬ男から興味深い話を聞かされる物語です。
男の語る物語が、これが又、現実とは思えないような幻想的なものです。お遊さんに惹かれて妹と結婚しますが、姉の思いを知る妹は主人公との関係を持たず、姉であるお遊さんと主人公の中を取り持ちます。
そうした微妙な関係の三人の物語で、どこまでが真実なのか解らない幻想的な物語です。

共に、母親又は特定の女性への限りない憧れがベースになった物語です。

両短編とも、短い文章の中にしっかりと内容が収まった秀作です。
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正月にこたつでのんびりと味読した一冊。
谷崎の文体への苦手意識が消えて、静かに染み入るように作品の世界に浸っていた…
素晴らしいの一言です。

[吉野葛]、[葦刈]ともに構成は似ており、谷崎ワールドが色濃いのは[葦刈]の方。古典の引用や、おそらく意図的に句読点を削ったり、固有名詞をひらがなで書くなど、現代の文章に慣れた人間にはもどかしいような読み辛さだが、それが逆に頁を繰る手をゆっくりにして、作品世界の流れに自然に身を委ねてしまう。読後は、淀川の中洲の月見に持ち込んだ正宗の味わいを思わせる酔い心地、見事な構成と文体である。

個人的にはしかし[吉野葛]の方がより好ましい。
仮に紀行文として読んでもそれは見事な仕上がりなのだが、これは正しく小説であり正統な文学としての感銘を湛えている。
吉野川の情景を遡上しつつ、母性思慕とシンクロしながら過去へと遡行する。
[葦刈]艶めいた情景描写も秀逸だが、この吉野の描写は情景の素朴さ故に匂い立つほどに静謐で美しい。
凡百の紀行文など束になっても敵わない、がこれは小説であり、最後の吊橋の風景が鮮やかなほどに文学として収斂している。

この2作は是非とも、岩波の緑で読んで頂きたい。
収録された吉野の風景写真や、葦刈の挿絵が見事に作品世界を彩っており、少し丸い、小さめな岩波独特の活字と相まって、この2作を何とも好ましく、魅力的にしていると思う。
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