実際に私は吉野へ行ったことがないのだけれど、『吉野葛』を読んでいると吉野の美しい秋が眼前にきらきらと輝いて見えてくる作品です。この本を読んで、ものすごく吉野へ出かけてみたくなりました。派手な作品ではないのだけれど、しっとりとしていて何度も読み直し、長く味わいたいと思える内容です。
『盲目物語』は特に私のお気に入りで、信長の妹、お市の方に寄り添うようにしてついていた盲目の按摩師を通して戦国時代の不条理を、女性の観点から描いた作品になっています。谷崎潤一郎は不幸な中に身をおかれた女の心の葛藤を、どうしてこんなにも細やかに描くことができるのだろうかと彼が生きていたなら是非尋ねてみたいのです。また、男性(按摩師)から見たお市の美しく、愛おしく感じられる点も当然のことながら描写されていてみずみずしい。按摩師の語りによる物語なのでとても読みやすく、感情移入もしやすいと思います。