ホーレンシュタインが急な客演によばれた時、到着した空港で出迎えたオーケストラ関係者に「B」か「M」と聞いた、
つまり演目が「ブルックナー」か「マーラー」と聞いたエピソードがあるそうです。ホーレンシュタインがこの二人の作
曲家の曲を得意としていたからですが、新規の録音が少なくなった最近でもこの二人の録音が一番多いように思
えます。来日オーケストラの演目でも同様な傾向があるように思われます。
大指揮者と言われた方々でも、バーンスタインのようにマーラーの録音は大量に残したがブルックナーは「第九番」
だけ、あるいはカラヤンのようにブルックナーの全集は残したがマーラーは一部の曲だけ、あるいは両方の作曲家
の全集を録音した指揮者など、中々面白い現象に思えます。
この本は日本を代表する音楽評論家の吉田秀和氏が、1960年代からこの本が出された2001年までの間に書か
れた二人の作曲家についての原稿をまとめたもので、長い期間にわたっていることから時期の早いものには、あ
る種のためらいや迷いのようにも感ずる文章など興味深いものも含まれます。同時に日本でこの二人の作曲家へ
の理解がどのように深まっていったかも窺われる内容の評論集だと思われます。
個人的にはブルックナーで一番聞くことの多いものは「第九番」であり、マーラーは「大地の歌」「第九番」「歌曲集」
などですが、この本ではその歌曲についての評論も含まれています。歌曲については原稿が発表された後の録音
も増え、聞き惚れてしまうような歌いぶりのものも増えました。本の中で取り上げられている録音のCDやLPを探し
てきて、聞き直してみたり比べたりする、心躍る時間を過ごす喜びも与えてもらえる本だと思います。