この本の特徴と謎は料理の絵や写真がひとつもないのに・・
「どうしてこんなにおいしそうにそれぞれの料理がいきいきと描かれ、表現されうるのか?」という点です。
大概の料理本は写真が美しい、又はレイアウトがカラフルである等の要素で読者の目をくらましてしまうものです。要するに料理のレシピがまずかろうが何だろうが読む方は気にもしないし、ちょっと料理の経験のある人なら、別に調味料の分量なんか関係なく視覚的なイメージから、適当に似たような料理をつくる事が出来ます。
しかし、この本に関してはもちろん調味料の分量なんか書いてもありませんし、火加減なんかもいちいち教えてくれませんけれども・・季節の素材をいかに生かし、そして料理とは山と谷で構成して行くものである事、そして料理が単に味と舌触りで出来ているものではなく、室内のインテリアや掃除の仕方や食卓での演出の仕方等料理を楽しむ空気、雰囲気の力、器の温め方運び方等細やかなサーヴィスと心遣いからも味わい感じるものである事を、ただ一筋に料理に対する情熱と柔らかい関西の語り口を通じて100%余すところなく教えてくれます。
日本の伝統の料理人らしく「器と盛り込みで演技する」素晴らしい職人芸を目の前で実際に見せるように書かれてあり、読む方にもあらゆる料理に関するコツ・・そして何より、自分でも料理をしてみよう!という強い霊感を与えてくれる素晴らしい日本料理の稀有な啓蒙書です。
清清しい感動が、料理に一生を捧げて悔いない男の控えめな、そして自信に裏打ちされた気取らない物言いから沁みるように、押し寄せるように読者を圧倒します。読むだけで終わらない素晴らしい読書体験です。