坂の上の雲は、正岡子規が死ぬまでの明治の青年の青春小説の部分と、日露戦争を俯瞰的に語った歴史小説の部分とで、これが同じ小説かと思うほど構成が変わってしまう本である。この歴史小説の部分は安易に読むと戦争を賛美しているようにも読める。そうした底の浅い批判に対して谷沢永一は、「この作品は、日本の陸軍・海軍を含めて、この日露戦争における悲壮な勝利の中に、さまざまな病がすでに芽生えていたことを明らかにするものである。それを一つ一つ指摘することを、司馬さんは目的にしえいるのではないか。だから、これは、帝国陸軍・海軍批判の書として読むべきなのである。」と喝破する。
司馬遼太郎の本について、谷沢永一はいくつもの本を書いている。そのいくつかは、読者にとっての司馬遼太郎ガイドとして書かれている。しかし、この本は、谷沢永一が坂の上の雲という小説をこう読んだ、という谷沢永一の考えも大いに語られている。司馬遼太郎ファンだけでなく、谷沢節が好きな人にもおすすめである。