その名を知らぬ人はいないであろう歴史文学の大著。三国志がメジャーな一方、案外史記を呼んだ人は少ないのでは?歴史的教養という意味があることを差し引いても十分読む価値がある本。中国の漢の途中までの歴史を書いた本だが、見所は個人的には春秋戦国時代の各国外交官の舌戦である。一人の王を説得するために様々な外交官が国家の首都を訪ね、論戦と謀略を戦い抜き、最後は宰相になる。国王は必ずしも完璧な人間ではない。女好きだったり名誉欲が強かったり、猜疑心が強かったりする。彼らを説得するためには論理が通っているだけでなく、その論理が明快にわかるものであり、どんなに欲に目が曇った君主でもその必要性を悟らせるような能力が必要である。外交官たちは時には手痛い失敗もするが、それをばねにして何度でも説得を試みる。当時の世界において立身出世というものにどれほどの価値が置かれていたのかはわからないが、その執念には驚かされる。現代でも一介の浪人が最高の地位まで上り詰める物語は大きな魅力にあふれているが、史記はそのような話の宝庫である。かつて、元大本営参謀で伊藤忠商事の企業参謀であった瀬島龍三が「人間を知りたいなら史記をよめ」といったと聞くが、読み直すたびにそういわれるにふさわしいだけの数の人間がこの史記の時代のなかで生きてきたことを思い知らされる。歴史における自分の役割というものが信じられる、「やってやるぜ!」という気持ちに慣れる名著。