吉村氏がこれまで小説の取材を行ってきた際のこぼれ話を集めたものです。いくつかのエピソードが心に残るとともに、氏の小説、ひいては歴史というものに向き合う真摯さが伝わってきます。
高野長英はその逃亡生活を終え(処刑)、それと期をひとつにするように、12歳の娘は遊郭に売られてしまいます。彼女は火災で亡くなりますが、そのお墓を氏は探索、しかしあては獏とし見つかりません。桜田門外ノ変で井伊直弼を討った17人のうち、水戸藩士2人は生き残り、天寿を全うしています。(水戸藩士リーダー格の関が捕らわれるまでの逃亡跡を追った調査も心に残ります。なお、氏の井伊大老に対する評価は世間のものからは相対的に高くこの点も興味深い)。また、刑務所の取材で出会う、引退後も服役者のことは例え家族にも言外しません、と言った老刑務官の凛とした姿も心象に残ります。
あくまで具体的に、丹念に取材を重ね、そこで得られた事実を作家の目を通して印象的に仕上げていく、誠実な職人のような仕事ぶりが目に浮かぶようです。