本書は財務諸表を読むときのポイントを、主にバークシャー傘下企業の特徴を引きあいに解説したものである。内容はわかりやすいが、すでにバフェットの「株主への手紙」を読んでいる人にも役立つような洞察はとくにない。文章表現などの点から見ても、『バフェットの銘柄選択術』より作りが粗雑になってきている気がする。
著者はここ10年ほどで、バフェットの名を冠した本を何冊も書いている。略歴では、「義理の娘」としてバフェットの間近で投資を学んだように書かれている。共著者は「バフェット家と長年の友人」でポートフォリオ・マネジャーとある。ひと通り英語圏のサイトを検索してみる限り、著者たちの投資家としての経歴、とくに「バークシャーの仕事やバフェットの投資業務に携わった経験があるのか」、「バフェット本人から投資の手ほどきを直接受けたのか」という点については、著者自身のサイトを含め、はっきりとした記述が見あたらない。
5年以上かけ250人に取材したというアリス・シュローダーの『スノー・ボール ウォーレン・バフェット伝(
上・
下)』にも、著者への言及はほとんどない。バフェットの次男(音楽家)が、メアリー・ルロなる女性を妻としたが後に厄介な離婚訴訟に至ったとある。彼女には連れ娘がいてバフェット家の養女になるも、バフェット自身は遺産の分配を拒否して物議を醸したようである。そのさいバフェットは手紙で「きみの母親がいかなる点でも私の義理の娘ではないように、その子供たちが私の孫ではないのもはっきりした事実だ」(原著p.835)と書き送っている。ほぼこれだけである。
本書の内容はバフェットの投資術を「内側から明かした」というより、著者たちなりにバークシャーの年次報告書を研究したものという印象が強い。ところで、本書で取りあげられる企業の幾つかは、危機にさいしてバフェットがほぼ丸ごと買収したものである。経営を信頼する人物に委ね、ときに自ら立て直しに関わり、安定した収益をだせるまでにした事もよく知られている。しかし『スノー・ボール』などを読むに、現実には回復が想定以上に難航したり、波乱続きで際どかったケースもあり、何度か手痛い失敗も(近年ですら)嘗めている。そうした企業について、本書で読むと株の売買だけで儲かったかのような印象を受けてしまう。
また、不況下でも潤沢なキャッシュによる投資を可能にするために、傘下保険会社のフロートが重要な役割を果たしてきたことを、バフェット自身はたびたび語っている。本書がこのバークシャー成長の不可欠の仕組みにふれないのは、銘柄選択や買い時・売り時の判別だけでバフェットが富を築いたという錯覚を読み手に与えるのではないか。
本書では、新しく傘下となったBNSFもさっそく例に取りあげられている(そして失敗に終わったPier 1 Importsの売買にはふれられていない)。バフェットが買ったという結果から企業の「競争優位性」をあれこれ論じると、一見きわめて説得力のある解釈ができる。しかしそうした後講釈が、見かけの説得力ほどその後の投資眼の役に立つかどうかは考えものである。著者たち自身は、自らの知見によって「永続的な競争優位性をもつ企業」を果たしてどれくらい発掘してきたのだろうか。