これは素晴らしい映画です。今まで知らなかったのが残念なくらいです。この作品は変貌する前の京都(新幹線ができる直前の昭和37-38年)と初期の岩下志麻という二つの偶然がもたらした僥倖としか言いようがありません。京都の町の瓦屋根を上から移した最初のシーンから観客の眼を釘付けにしてしまいます。この統一性と秩序はもうこの世には存在しません。そして京都のシーンがこれでもかというくらいに描写されていきます。それと対比される形で浮かび上がるのが北山の森のシーンです。ここでは京都の背後の自然が見事な陰影の下で描かれます。岩下志麻の一人二役もお化粧を含めて見事な演技力でこの双子の生い立ちの違いがもたらしたパーソナリティの違いを演じています。そして最後に武満の音楽です。この音楽は現代音楽でありながら、部外者にはうかがい知れない京都の闇を強調するようにドラマのサスペンスを盛り上げていきます。ストーリーは春から夏、秋、そして最後の冬へと、京都の四季風物を紹介しながら、物語の展開と見事に対を成しています。雪が積もった朝の最後の別れのシーンは時が生み出した埋めることのできない隔たりを強調する形で締めくくられています。滅びへの無意識の予感こそ、この作品を生み出した原動力だったのでしょう。