本書は本居宣長や賀茂真淵などの江戸時代の古典研究者を多く登場させて
あの時代の雰囲気が伝わる話とりとめもなく書き綴ったものです。
古語や和歌に焦点を当てた部分もありますが、それのみを探究した内容ではなく、
全体としてみると江戸時代の研究者とその研究方法や題材としての書物などの
豆知識を徒然に書き記したという著書です。
帯には柿本人麻呂が登場し、1章では人麻呂の「ひむがしの野に〜」の訓み(よみ)
について検討しています。本書は万葉集の解読本ではなく、万葉集の検討はこの
歌のみです。しかも、この歌の訓みの結論は留保という尻切れトンボです。
帯を見て万葉集の解説本と勘違いしないように注意してください。
それはともかく、「ひむがし」が歌語(うたことば)ではないという考えは、万葉集の
歌語の外延が明確との前提に難があり、「ひむがし」が歌語ではないとする根拠も
弱いと思います。この歌の検討については
万葉歌を解読する (NHKブックス)をお勧めします。すばらしい本です。
多数ある巻末の参考文献のリストにはこの本が書かれていないのは残念です。
『偽史冒険世界』や『金印偽造事件』があるだけに。
源氏物語に触れた部分では本居宣長の『紫文要領』が引用されていませんが、
同書には学問への心構えなどについても良い記述があります。
気になったのは、架空(匿名)の他人をけなして自分を上げる類の記述がちらほらある
ことです。著者は取り立てて誰かに悪意を向けているわけではなく、楽しく読めるように
との配慮から書いていると思いますが、この種の記述が嫌いな方にはお勧めできません。
本居宣長「うひ山ぶみ」 (講談社学術文庫)の篤実な内容からは
「いい人なんだけど冗談がへた」というタイプの方とお見受けしました。
自分も似たようなタイプなのでこの点を悪く言う気はしませんが、あれは止めた方が
良いと思います。