後に直木賞作家となる角田光代が、フリーライターで古書の世界に詳しい岡崎武志の指令に従って、都内の古書店を経巡るという企画をまとめた一冊です。
角田光代はこの企画以前にはさほど古書店に慣れ親しんだ形跡がなく、書かれていることはルポルタージュというよりは気楽な古書店エッセイといったレベル。都内の古書店に関する奥深い業界裏話は登場しません。
古書店めぐりに慣れた読者には少々歯ごたえがないかもしれません。
それでも私はある程度楽しめました。
ひとつには、早稲田の古書店街を歩く角田の案内役に向井透史が付き添っていたこと。
早稲田古書店街に生まれ育ち、「古書現世」の跡取りである向井透史は「
早稲田古本屋日録」という名エッセイを物している人物。その彼と共に古書店街を歩く贅沢を味わえた角田は果報者です。しかし「早稲田古本屋日録」はこの「古本道場」の単行本が出た翌年に出版されたので、角田はまだ向井の練達の文章に触れておらず、自らの幸せを知ることはなかったようです。
渋谷の古書センターはこの二十年来私が頻繁に足を運ぶ古書店ですが、その二階に「フライング・ブックス」なる別の古書店があるということを本書で初めて知りました。早速出かけてみましたが、本書の記述通り、ビート族などの米国文学やスピリチュアリズム、サブカルチャーなど、私の関心が向いている領域の古書が並んでいました。
昭和42年刊行の「
アメリカのベストセラー (1967年)」(武田勝彦/研究社出版)を500円で買って帰りました。
最後に私が強い共感を覚えた言葉を引き写しておきます。
「今も無知だが、十八歳の私は本当の本当に無知だった。知らないことだらけだった。」(93頁)
「古本屋が媒介となって、縦横無尽に広がる知識の糸は、純粋に知識の糸なのだ。私は単純に知りたいし、読みたい。そのことの、なんと贅沢よと思う。」(226頁)