著者は本の装幀のデザインなどを手がけている画家だが、本書を一読して強く惹かれるのはその洗練された文体とユーモアである。このことは、本書でも扱われている鍋井克之という画家がかつて作家の宇野浩二にその随筆の腕前を賞賛されたように、著者の優れた文才に負うところが大きいように思える。
本書に収められているエッセイは、古本に関する同人雑誌等に寄稿されたものが中心になっている。私は日頃から著者のブログも読んでいるのだが、そのブログ以上に内容が濃く興味深い。その中でも、特に印象に残ったエッセイは次の3点である。
「犬の記憶」:愛犬の死がもたらしてくれた貴重な書物の記憶が抑制の利いた文体で書かれており、読む者の胸を打つ。これなどはちょっとした短篇に仕上げられそうな気がする。
「文筆休業」:上でふれた画家鍋井克之の文筆家としての魅力をその著作を通して紹介しているのが非常に興味深い。
「眼の引越」:青山二郎の魅力を洞察に満ちた文章で深く掘り下げている。青山の文章は読んだことがなかったが、相当なものなのだろうと感じた。