本書の魅力は、単なる物語でもなく、単なる自叙伝でもなく、単なる技術紹介の本でもなく、それらが全て混ざり合い、良いバランスが保たれた作品だということであろう。
主人公が書籍修復の世界にのめりこんでいく様は、各修復作業の詳細な描写で肉付けされ、読む側にも緊張感とリアリティーを持って伝わってくる。
訳者あとがきで、市川恵里氏は、きちんと翻訳できるようにと、自ら書籍修復の基礎を学んだということを知り、なるほどと思った。基礎があったからこそ、日本語での自然で詳細な描写が可能だったということだ。
もちろん、専門的知識が無い者が読むのが難しいということではない。むしろ書籍修復の世界を全く知らない人にこそ、覗いてみてほしい本だと思う。