恥ずかしながら、岸田秀の本を読むのはこれが初めてなのだけど、読んで後悔した。「なんでもっと早くに読まなかったのだろう」と後悔した。まぁ僕は、面白い本に出くわすといつもそう思うのだけど。
僕が読んでいて感じたのは、その首尾一貫している着眼点の面白さだ。人間は社会の中に位置を占めてこそ存在意義を自覚できる、というような事を「唯幻論」と名付けている。これって養老猛の「人は脳の中に生きている」というのと同じ意味合いじゃなかろうか。ともかく、森羅万象を(アメリカの覇権主義の話からグラビアアイドルのことまで)、その独自の論理でばっさばっさとやっつけていくさまが小気味よい。
どうやら唯幻論を一種の「トンデモ」と分類する人がいるらしく、ご本人は、それに憤慨なされて、わざわざ反論のために一文を書いておられたりする。が、無責任に言わせていただけば、「トンデモでもいいじゃない、面白ければ」と思う。
唯幻論の出所である精神分析は、一般人にとってある種のいかがわしさを持っていて、そのいかがわしさの分だけ魅力的なのである。唯幻論も、トンデモの香りが隠し味のスパイスとなって魅力をきわだたせていると言えるのではなかろうか。
なお、本のあとがきでは、ご本人自ら、(トンデモ的)牽強付会な精神分析もどきを披露して読者を大いに笑わせている。こういう離れ業ができる知性に、心底からあこがれを感じる。