古事記とは長い付き合いだが,この文書にはどこか怪しげな陰が付き纏っている感じが拭えなかった.最古の現存本がなぜ 14世紀末と新しいのか ? なぜ伝承の記録が全くないのか ? なぜ偽書説をまともに解説に含めた古事記現代本がないのか ? 三浦教授によるこの本は,これらの疑問に間接的ながらよく答えてくれる.手許に古事記,日本書紀,萬葉集を置いてこれを読むと,まさに多年の疑問が氷解する快感を味わうことができる.特に萬葉集の歌番号90における引用の指摘は助かる.相互に記述の内容が一致するのだ.但し,ここまで来たら古事記と先代旧事本紀が (仮名遣い以外は)同格になってしまうので,後者の内容についての言及が必要になるだろう.この本は比較的に手早く書かれた物と思しいので,より入念な再論に期待したい.