その昔、鴎外訳の文語体「即興詩人」を読んだ時は、筋を追うのがやっとで、中身を味わうことはできませんでした。
安野光雅氏の口語訳は、鴎外の文章の雰囲気はそのままに読みやすくなっていて、今回は、じっくりと内容を味わうことができました。「即興詩人」はあらすじだけ追うと、それほど価値のある物語のようには思えないのですが、深く読み込むと、人の心のひだ、醜さも美しさも哀れさも、じっくりと書き込まれていることが分かりました。
あえて現代風な単語は使わずに、鴎外が使っていた古い用語(姫、〜の君など)を残しているところが、成功して、鴎外の雰囲気そのままに口語に再現されていると思います。即興詩人アントニオは、純粋な魂をもとうとする奇特な若者ですので、彼を取り巻く物語描くには、こうした古い用語を用いた方が適切に表現できるように思います。
内容について少し触れると、アントニオの永遠の恋人である優れた歌い手にして女優のアヌンチアタの心意気、人生の非情さ、あはれさが悲しく印象に残りました。