日本の思想家、あるいは活動家として極めて異彩を放つ大杉栄の、代表的な論集を収録した著作。1948年に刊行された底本を基にした再刊で、「僕は精神が好きだ」「征服の事実」「生の拡充」「鎖工場」「正気の狂人」などの有名な文章を始めとして、無政府主義の思想とサンディカリズムの実践を軸とした論陣を縦横無尽に展開していく。巻末には編者と思しき近藤憲二氏によるあとがきと、大杉栄の評伝をものした鎌田慧氏の解説が付されている。鎌田氏の解説は入魂のコメントで、読んでいるとグッと来る。
本文を読み進めていくと、衒いのない真っ直ぐの、ガチンコの言論が繰り広げられていくのが圧巻だ。今でも張り巡らされて瀰漫しているナアナアで隠微な力関係を手加減なく引っぺがしていくのは爽快で、世の仕組みやはたらきを見えやすくしてくれる指摘が多い。その認識からサンディカリズムの実践を進めて労働運動にコミットしようとする論陣を広げ、実際にも関わっていったようだが、その示している筋は終始一貫している。比較的親しい知り合いにも平気でシュートを仕掛けていて、業界のケッフェイも何のその、世間の空気も意識的に読まない体の活動は大杉栄一代の生きざまを思わせてくれる。
一方でその論鋒に触れると市井の人々を買い被り過ぎな気味もある。人は氏が思うよりよっぽどずるくて一貫性がなく、権威主義で日和見主義でいい加減な存在であることは、自らを省みてまたは周りを顧みて実感するところだ。しかしながら他方で、大杉栄のように清く強く生きた人に触れると、そんな自分たちでも少しは強く生きられるのではと思わせ、逆風の前に自分を孤立して立たせようとする勇気をくれる。
鎌田さんも触れているが、精神的隷属から脱しようとする意志と実践は眩しくて読む者を奮い立たせるものがある。ボブ・マーリーの絶唱「リデンプション・ソング」を思わせる。読む人によっては大切な著書になるかもしれない一冊。