評者は、本作品の監督である和田秀樹氏に大学受験に際してお世話になった者である。その点に留意してお読み戴きたい。
単純な大学受験シミュレーション映画ではない。例えば、各家庭間の経済格差が学力格差・教育格差、延いては学歴格差を齎し、それがまた、新たな経済格差を生み出すと云う悪循環、貧困の再生産に対する和田監督の問題意識、或いは危機感が反映されている。和田氏は、この、究極的には階層の固定化に繋がりかねない極めて深刻な社会問題を見事に映像化しているのであり、換言すれば、いわゆる「格差社会」の本質の一端が、この作品に於いて明らかにされていると評する事が出来るのである。他にも、末期医療、就中、「緩和ケア」に対する独自の視点が織り込まれている。教育・受験専門家にして医師でもある和田氏の面目躍如とも云える作品であろう。初監督作品がこのレヴェルならば、立派に合格点と考えてよい。
ノヴェライズ版の「あとがき」で和田監督が述べている様に、小説と本作品とでは細部が意外に異なっている。例えば前者に於いては、「国語力」こそが全ての学力の根本であるとしてその重要性が強調されており、実際に受験を経た者であれば頷く向きも多いものと思われる。そもそも国語力が無ければ、数学であろうが英語であろうが、学力が身に着く筈が無いのだから。余談だが、金八先生シリーズの数学教師、「乾先生」も、劇中にて同様の見解を述べている(笑)。
受験シミュレーションとして御覧になりたい方は、まず映画から入って「受験」の大枠や全体的な流れを把握した上で、その後に小説の方で細かい知識を得て行くと云うのも一つの手であろう。あらゆる物事について云えようが、最初に全体構造を把握すると後が非常に楽になるものである。勿論、娯楽作品としても一級と云えよう。
それにしても、と、思う。子供に与える愛情の最たるものは「教育」に他ならないのだと。夢も希望も無く、自分の居場所すらも失い、途方に暮れて真っ暗闇の中を泣きながら彷徨い歩いていた孤独なヒロインは、主人公に救われ導かれて、自分の未来を切り拓く事が出来たのだ(勿論、受験勉強を教える事だけが教育の全てではないだろうし、また、「よい大学」に入る事のみが人生に成功する道でもないであろうが)。無条件で信頼の対象となり、自分自身を見守り続けて安心感を与えてくれる主人公の様な大人の存在の何と力強い事か。人は、人で変わる。つまるところ、教育こそ、真に掛け替えの無い財産なのである。
豊原功輔が演じる、この主人公の人物造形は出色の出来である。「男はつらいよ」に登場する車寅次郎や、劇画「シティーハンター」の冴羽'を彷彿とさせるハードボイルドな男、否、「漢」以外の何物でもない(笑)。かつては社会的成功を収めて地位や名誉を手に入れ、拝金主義に陥ってさえいた主人公が、死期を悟り、最後の力を振り絞る事によって人生と云う舞台でヒロインを輝かせる。見事な死に様であり、漢の亀鑑と云う他ない。或る意味では、ノブレス・オブリージュの一変形の実践と云っても過言ではあるまい。
また、主役の豊原自身、同年に「闇の子供たち」と云う問題作にも出演しており、目覚ましい活躍を見せている。何と云ってもテレビ画面以上に劇場のスクリーンで映える役者たるところがよい。正にハマり役であり、この作品の成功は彼に負うところも大である。他にも玄人受けする俳優陣で固められており、映画ファン、とりわけ、邦画シンパとしても見逃せない作品と云えよう。