評者は、本書が多くの人に読まれ、無批判に受容されることを恐れる。読者として想定されている反戦派の人々が本書の誤った軍事知識を信じ込むようなことがあれば、反戦派の言論の弱体化につながり、その害悪は計り知れないからである。
すでに多くの人が指摘しているので、誤りの実例をくだくだしく書くことはしない。1例だけあげれば、戦艦大和の「片道燃料」説についてはWikipediaも誤りと記述しており、これは戦史に関心のある者なら中学生でも知っている話だろう。確認する手間を惜しまなければ確実に避けられる誤りを犯している。
著者は資料を参照せず、事実の再確認を怠り、うろ覚えの知識と思い込みに基づいて本書を書いたのだろう。「軍事学」を名乗るのはおこがましい。
著者は「戦争に反対だと考える人ほど、軍事に関する知識を持ってもらいたい」と考えて本書を書いたのだという。その意図はよい。評者も全面的に賛同する。しかし残念ながら、正しい意図は必ずしも著作の質を保証しない。
反戦派の中に、著者が同じ立場であることを理由に本書を擁護する人がいるなら、知的退廃と言うしかない。主義主張を同じくする者の間でも忌憚ない相互批判をすることによって、言論は鍛え上げられるのである。