「哲学なんかと関係のない、健康な人生がいいですね」と言い切る著者による、哲学をめぐる愛と憎しみの談話集。明らかに玄人を意識した皮肉めいた発言があったり、くり返しが多かったり、ところどころで話が飛んだりするので、「入門」というのはちょっと無理があるかな、と思うが、単純に一冊の本として非常におもしろい。著者の西洋哲学との独特の接し方についても色々と触れながら、ギリシャ思想からハイデガーによる思索までの間に展開された「哲学」的思考(≒存在するもの全体に対して「それは何か?」と問いかけること)の諸相を大づかみに説明していく語りは、とにかく年季が入っているなという印象で素晴らしい。
ソクラテスという「ひたすら否定に徹した…誰にとっても気になる正体不明の男」が準備した思想空間に、プラトンによる世界製作のモデルとしての「イデア」論が発生した後、その普及版としてのキリスト教の「神」の理念が西洋社会に広がっていく。そして、近世デカルトにおいて「神」そのものから「神的理性の派出所としての「理性」」へと超越的なものの居場所の異動があった後、さらにカントが「理性のおこなう純粋な認識の有効・無効の範囲を批判的に確定」したことで近代哲学が成立する。それからヘーゲルなどにも少し言及されるが、むしろニーチェに端を発する「反哲学」の系譜の方が本書ではもちろん重要となってくる。
そのニーチェに関する解説も興味深くて、ニューチェが「西洋の文化形成の総体を批判的に見るような壮大な歴史的視野を開きえた」理由は、彼が、実の妹との間にあったかもしれない「インセスト」な関係をタブー視する既存の理性的慣習に対する反発を感じていたからではないか、と指摘する。また、ハイデガーにしても、有名な話だがかなり「やなやつ」だった点をあれこれと紹介しながら、けれど同時にその「哲学」研究者としての偉大さ、「反哲学」者としての徹底振りを褒め上げる。ここでも、著者の「哲学」とその担い手に対する愛憎ぶりが際立っている。
巻末でも推挙されているように、初学者には『反哲学史』(講談社学術文庫)のような本の方が親切ではないかと考えるが、しかし、やはりこういう語りの好き勝手ぶりの強い作品は読んでて楽しい。