佐伯啓思氏の著作は15年ほど前から殆ど読んできましたが、今回初めて買わなきゃ良かったと思いました。著者は、間違いなく現代日本を代表する社会経済学者で、その主張の一貫性、倫理性、普遍性など、どの観点から見ても秀逸な分析・提案をしてきました。竹中平蔵などとは次元が違います。本書も3章ぐらいまでは、今までの主張の延長線にありますが、5章ぐらいになると、「幸福という強迫観念」などという概念を語り始め、従来のニヒリズム論をベースに宗教論を展開し始めます。この議論の前提となっている「幸福」の定義が明確にされていないために、筋が通らない箇所があちこちに現れます。無理して、トルストイを盛んに引用しますが、説明になっていなかったりします。8章冒頭の原発事故にいたっては、「人災なら防げるはずです」と主張します。本当に全ての人災は防げるのでしょうか? フランク・ナイトの不確実性は天災のみに適用されるものなのでしょうか?
どうも、本来の守備範囲でない宗教や原発分野に「領空侵犯」した結果、ボロが出たように見えてしまいます。著者の素晴らしい主張は、本書ではなく、本来専門の社会経済学の分野の本に見事に述べられていますので、そちらをお勧めします。