昨今、アートという言葉が今までにないほど氾濫している。本書は、『シミュレーショニズム』などで知られる美術評論家の椹木野衣によるそんな“アート”の入門書的内容だ。
アートの入門書なのになぜそれに「反」とつけられているのか。それは、これからのアートが必然、今までのアートの“ある部分”に対して反旗を翻さざる負えないという著者の強い主張が、本書に込められているからに他ならない。この点、20世紀に花開いた現代思想が、それまでの哲学へのカウンターとして生まれたという視点で解説する木田元『反哲学入門』と意図することは重なるかもしれない。
入門書と銘打たれている多くの書物が失敗する躓きの石の一つに「そもそも入門書になっていない」というものがある。しかしその点本書は、芸術とその歴史的変遷を解く入門書的内容と、それを踏まえた上でのそこから先の著者自身のオピニオンが、バランスよく融合しているといえるだろう。すべてのアートシーンをフォローできているとまではいえないまでも、入門書としてはきわめて豊な内容であり、ちょっとかじってみたいくらいの気持ちで通ろうとしたなめた一見さんは寄せ付かないような、5つの敷居の高い「門」で構成されている。
本書がアウトラインを描くのは、神から人間のものとなった近代以降のアートが、細分化と離散を繰り返していくダイナミズムだ。また開国とともに西欧的芸術観を「直輸入」してしまった日本の後にたどった悲喜劇や、冷戦構造崩壊後にあらゆる作家と作品が並列化されていくという(まさにスーパーフラットな)市場の現状にまで、話は及ぶ。そこでつまびらかにされる著者のとある見解(というか著者はもともと芸術はそういうものなのであるというのかもしれないが)は、市井の芸術を「教育」や「才能」と結びつけたがる人間からすれば、ショッキングなものとなるだろう。くわしくは本書を手に取ってみてほしい。