■あらすじ
23歳の作家の卵、野島は友人の仲田の妹、杉子に一目惚れする。日々想いは募り、彼は無二の親友であり、作家として認められつつある大宮に想いを打ち明ける。大宮は彼の恋の成就を応援し、協力を約束する。しかし、社交的な仲田の家には多くの人々が出入りし、16の杉子にも既に結婚の申し込みまであったという。
二人は休暇先?の鎌倉で仲田一家、その友人達と一緒になる。そこには杉子に気があるらしい、法科の特待生であり、仲田の母のお気に入りの早川もいた。不器用で貧弱な体の野島はやるせない想いを心の中で杉子にぶつけることまであったが、大宮に支えられ、杉子への想いを強くする。杉子の友人で大宮のいとこの武子の存在もあり、次第に野島も杉子と親しくなる。大宮はそれとは反対に杉子に対し酷く冷たく振る舞っていた。
大宮や武子の影響で杉子も野島に尊敬を示すようになり、杉子との将来を夢想する野島だったが、次第に杉子が何故か大宮に惹かれていく様子を感じるようになる。
そんな折、大宮は海外へ留学すると告げるが、それを聞き淋しさと同時に安堵を覚える野島。
大宮の意志は固く、長かった鎌倉での生活を終えてすぐに西洋へと旅立つこととなる。旅立ちの日、大宮の見送りに訪れた横浜でやはり見送りに来た杉子の視線を追う野島は杉子の気持ちが全て分かったように思った。
一年後、とうとう大宮は杉子に結婚を申し込むが断られてしまう。食い下がるものの理由は告げられず、短い手紙での返答があるばかりだった。
更に一年ほど経ち、野島は少しずつ文壇より認められつつあった。しかし心は淋しく、杉子を忘れることができない。その頃、野島は大宮から奇妙な手紙を受取る。手紙の指示通り同人雑誌を手に取る野島。(上篇)そこには大宮が西洋に留学してから後の、大宮を一途に想う杉子と、野島を尊敬し強く彼の幸せを願う大宮の手紙のやり取りが記されていた。(下篇)
以前住んでいた街に実篤のアトリエがあったため(現在も庭を含む自宅が公園として開放されています)、全く知らない作家でしたが気になり手に取りました。少し古い小説なので読みにくいかと懸念しましたが、文体もとても読みやすいです。
レビューを書くにあたって読み返していたのですが、読むほどに心に強く迫る小説です。正直この野島という主人公が好きになれずにいたのですが、最終章、小説を読み終えた野島の気持ちが表された20行程度の文章がどんどん大きく響き、野島の気持ちが手に取るように感じられるほどでした。そして彼はきっと大宮が彼を讃えるように強く起き上がってくれるのだろうと思います。
最近の小説のように分かりやすくはないかもしれませんが、何度も読み返してみてください。必ず心に響くと想います。