例えば。「異世界も魔法も超能力も出てこない高校生青春ものライトノベル」という
点で本作と似た『とらドラ!』から、色恋沙汰とスラップスティック要素と家族問題と
家計の問題と将来の問題とを限界まで削ぎ落としたら多分、本作と近い味付けになる。
誰も死なない。病気や怪我すらしない。性描写もなし。嫌なヤツが1人もいない。憎悪を
抱えた人間もいない。テーマはタイトルに集約されている。過剰に引っ込み思案である他
には特に欠点のない「友達いない歴=年齢」の主人公が、『友だちの作り方』を学んで
いく物語である。推薦図書に指定するべき。
ここまで平和・安全な無菌室の如き舞台であるにも拘わらず、本作は青春ものとして
十二分に面白い。ストーリー上は事件らしい事件が起こっていないうちにも、主人公の
内面はいつも大荒れ、波風立ちまくりである。主人公・仁科椛が、一ヶ月にも満たない
この物語の時間で学んだ事柄は全て、恐らく、人生に於いて最も基本的かつ重要なこと
であるに違いない。多くの子どもが大人になっていくにつれ、まるで自然と、当たり前に
身に付けていくこと。しかし実は、一部の人間にとって、それはとてつもなく難しいこと
だったりする。物語の後半戦で、脇役男子がこんな台詞を言う。
「仁科さんが落ち込んでると、仁科さんの友達の茜も落ち込むんだよ。で、そうすると、
茜の友達の俺も落ち込むんだ。だからさ、仁科さんに早く元気になってもらわなくちゃ困
るんだよ」
あまりにもストレート過ぎる、良い子ちゃん過ぎる、素朴過ぎる、恥ずかし過ぎる
この台詞を、臆面もなく言ってくれる善良な人間が側にいて初めて「友情」を学べる
という、気の毒なほど愚昧な人間関係音痴が、世の中には、いる。
善良で誠実な臆病者が必死の勇気を振り絞って行動したとき、それが報われる幸福。
人の心が孤独に引き籠もってしまうか否かの瀬戸際で、他者からの幾つもの優しさが
それを回避させた、小さな奇跡の物語。