本書を読むと、司法はこれまでの幾多の原発訴訟で少
数の例外を除き、行政の主張をただ追認してきただけだ
ったことがよく分かります。ただし、その主張をした肝心
要めのその原子力安全委員会の委員長が、今回の福島
第一原発(以下「福島原発」)の事故直後に菅首相に「原
子炉は構造上爆発しない」と助言しているというのですか
ら、もう何をか言わんやです。
それ以前にわたしが愕然としたのは、原発がこれまで
経常的に従事労働者(それも下請け)に被曝者を発生さ
せてきていることです。東海村JCO臨界事故では、周
辺住民にまで健康被害者(住民被害者のPTSDを、宮
地尚子『環状島=トラウマの地政学』を参照しながら説
き明かしているのは勉強になりました。)を出しました。
しかし、残念ながら裁判所は、ここでも国策を優先して
被害者の叫びを抹殺しています。
著者は、自身が弁護人を務めた浜岡原発訴訟一審で
敗訴したために福島原発の悲劇を防げなかったと悔み、
この種の訴訟の改革を提案しています。また、福島原発
事故による多数の住民、労働者の被曝(この間福島原
発から大気中に放出された放射性物質は、セシウム137
に限っても広島原爆の168倍と試算されている。*)を
長期間モニタリングし、健康被害を軽減化するための法
的整備も訴えています。
ライフワークとして長年原発訴訟に取り組み、その危
険性を提起してきた著者、そして津波の恐ろしさを啓発
し続けてきた『津波災害』(2010)の著者・河田惠昭さん
おふたりの予見力と誠実な姿勢に、只々恐れ入るばか
りです。
* 児玉龍彦『内部被爆の真実』幻冬舎2011では、漏
出した放射性物質は広島原発の20個以上とされて
います。