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原発危機と「東大話法」―傍観者の論理・欺瞞の言語―
 
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原発危機と「東大話法」―傍観者の論理・欺瞞の言語― [単行本]

安冨 歩
5つ星のうち 4.0  レビューをすべて見る (33件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容紹介

福島第一原発事故に大きな衝撃を受けた著者は、その後の国や東京電力の対応、そして一般の人々のふるまいに唖然とする。いったい原発で何が起こっているのか、事故はどの程度のものなのか。放射能はどこまで広がったのか。いっこうに情報が出てこない。枝野官房長官は「ただちに影響はありません」を繰り返すばかり。多くの人たちは、放射能がまき散らされたのを知っても、パニックにもならず、以前と変わらぬ生活を送っているように見える。いったいこれはどうしてなんだ!そこから著者が感じたのは、現代日本人と原発との関係は、戦前の日本人と戦争との関係によく似ているということ。勝ち目のない戦争を続け、原爆を投下されてもなお戦争をやめることのできなかった戦前の日本と同様の何かがあるのではないか。そう感じ、そのような視点で日本社会を眺めてみると、そこに共通して浮かび上がってきたのは欺瞞的な言語体系だった。

社会が暴走を始めるとき、きまって言葉の空転が起こるというのは、著者がこれまでの研究で確信していることで、今回の福島第一原発事故でも同様に、欺瞞的な言葉があふれだした。そもそも、欺瞞的言語は、原子力を推進する側が多用してきたものであり、原子力は安全と言い換えられ、事故は起こらないとされ、それを私たちが信じてきた結果、今回の事故が起こったのだ。あれほどの事故後も、その欺瞞的言語は使われ続けた。

その欺瞞的言語体系の代表が「東大話法」である。もう二度とあのような事故を繰り返さないためには、欺瞞的言語と決別しなければならない。そのような問題意識のもとで、著者が欺瞞に満ち溢れたと思われる原発をめぐっての言説を取り上げ、徹底解析。御用学者の発言や東大話法を駆使する池田信夫氏のブログを検証し、欺瞞的言語の悪質性を明らかにするとともに、欺瞞的言語を生みだす日本社会の構造を明らかにする。

著者について

1963年大阪府生まれ。京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。京都大学人文科学研究所助手、ロンドン大学政治経済学校(LSE)滞在研究員、名古屋大学情報文化学部助教授、東京大学大学院総合文化研究科・情報学環助教授を経て、東京大学東洋文化研究所准教授、2009年より同教授。博士(経済学)。著書に、『「満洲国」の金融』『貨幣の複雑性』(以上、創文社)、『複雑さを生きる』(岩波書店)、『ハラスメントは連鎖する』(共著、光文社新書)、『生きるための経済学』(NHKブックス)ほか。

登録情報

  • 単行本: 276ページ
  • 出版社: 明石書店 (2012/1/7)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4750335169
  • ISBN-13: 978-4750335162
  • 発売日: 2012/1/7
  • 商品の寸法: 18.8 x 13 x 3 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.0  レビューをすべて見る (33件のカスタマーレビュー)
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霞ヶ関文書ともよばれるような政策文書や審議会議事録等を読んできた私にとって、何か変だな、と引っかかっていることがありました。それは、なぜ、原子力政策を立案している人々がかくも無責任で、傍観者的なのであろうか、ということです。また、決定的な出来事や反論があっても、まるで何ごともなかったかのように、従前と同じように事が進んでいくのは、どうしてなのだろうか、と疑問に思っていました。

こうした場面は極めて多く、そのたびになんとも言えない気分を味わっていました。

安冨氏は、この本の中で、原子力に関連する様々な論説を分析し、無責任な言説がどのように展開されるのかを詳しく述べています。その分析ツールとなるのが、「東大話法」です。私は、この本の分析によって、長年の疑問が解けました。

「東大話法」というのは、あくまで話法を総称した名称です。安冨氏自身が述べていますが、東大出身者であっても「東大話法」を使わない人もいますし、その逆もいます。しかし、東大出身者および東大内部にそのような言説が多いというのは、安冨氏自身が、東大教員として内部で実感しているようです。

ではなぜ、こと東大で、「東大話法」が使われるのか。

「東京大学という権威を利用すると、それは非常に効果的であって、多くの人をだまくらかせるのであり、そういう経験を積むことによって、東大関係者は自信満々となり、ますます東大話法に磨きをかける、という循環関係になっています。」(pp.191-2)

と安冨氏は明快に述べています。この指摘は痛快であり、極めて鋭い。

このような権威に依拠した言説にだまされないためには、どうしたらよいのでしょうか。「東大話法」のやり口を知り、自らがそれを使わないことだ、と安冨氏は言います。

「必要なことは、「東大話法」に代表されるような、日本社会に蔓延する欺瞞話法を鋭く見抜くことです。・・(中略) 個々の人が、自らの中の「東大話法」を見出して取り除くことに努力せねばならず、そうすることではじめて、他人の欺瞞もみぬけるようになります。自分は欺瞞話法を駆使しつつ、他人の欺瞞話法を見抜くというのは無理な相談だからです。」(p.192)

「東大話法」を知ることは、「東大話法」を自らが使用しないためにも必要です。例えば、「「誤解を恐れずに言えば」と言って嘘をつく」のは東大話法規則9に該当します。このような言い方をして、無茶苦茶なことを言った経験がありませんか?

「東大話法」で分析対象となっているのは、大橋弘忠氏、香山リカ氏、東大大学院工学研究科、池田信夫氏、鈴木篤之氏の言説です。また、斑目春樹氏(原子力安全委員会委員長)、近藤駿介氏(原子力委員会委員長)、鈴木達治郎氏(同代理)についても、安冨氏はその傍観者性を批判しています。

なお、この本は、「東大話法」そのものの他に、経済学への批判的見解、エントロピー論、地球温暖化に対する見解なども含まれています。評者とは見解を異にするところもあります。ですが、かといってこの本の価値が失われるわけでは決してありません。なにより、「東大話法」を定式化した安冨氏の努力は高く評価されるべきでしょう。

全体を通して、叙述の仕方は平易です。原子力村=ショッカー、小出裕章氏=仮面ライダーとたとえるなど、感覚的にわかりやすい表現を採用しています。現代社会に生きる私達にとって必読と言えるでしょう。
このレビューは参考になりましたか?
433 人中、379人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
フクシマ以降、私は何をしても心晴れず、笑うことも少なくなった。原発事故の衝撃もさることながら、その後の学者や政治家・マスコミの正気を疑うような発言や報道に接して、私は深く傷つき、ボディーブローが効いてくるように疲弊した。言語存在としての人間は、言葉を正確に使うことなしに現実に肉薄することもできなければ、精神の平衡を保つこともできない。専門用語を多用し詐術的論理を使う人間が、確信犯的な自信をもって声高に叫べば叫ぶほど、人間のおぞましさをまざまざと見せ付けられる思いがして、いたたまれなくなる。
 
 本書の第1章「事実からの逃走」から一例を挙げよう。2005年12月25日に行なわれた公開討論会「玄海原発3号機プルサーマル計画の『安全性』について」で、東京大学大学院工学研究科の大橋弘忠教授は「専門家になればなるほど、そんな格納容器が壊れるなんて思えないんですね」と発言し、討論の相手である小出裕章氏を素人だとして侮辱している。著者は、この公開討論会での大橋教授の議論の欺瞞性に言及して次のように述べる。「原子力の専門家であるための条件は、原子力についての真理に曉通することではない、のです。そうではなくて、欺瞞言語を心身に浸透させていって、まともに思考できなくなり、原子力業界の安全欺瞞言語でしかものが考えられなくなって、『格納容器なんて壊れるわけないよね』と<思い込める>ということが専門家の条件なのです(67頁)」と。
 
 第2章では精神科医の香山リカ氏が無意識のうちに自らの隠された真実を露呈することになった経緯を指摘する。
 
 そして第3章「東大文化」と「東大話法」で、経済合理性と費用対効果を何よりも重視する池田信夫氏を俎上にのせる。この章が本書の白眉である。「放射性廃棄物を途上国に開発援助と交換で引き取ってもらうことも可能で、これはコストの問題にすぎない」と断じる池田氏に対し、著者はそういう行為は卑怯であるとして、極めて重要な指摘をする。「経済行為を単にコストと利益に還元する論法が、経済学の特徴ですが、私はこの考えは経済的観点からして、間違っていると考えます。というのも、人間社会が卑怯者の集団となれば、社会秩序が維持できなくなるからです。その社会的・経済的コストは極めて大きいのです。この重要な論点を無視するのが、経済学という学問の最大の問題点だと私は考えています。池田氏のブログが絶大な人気をエリートの間で誇っているのは、ここのところがポイントなのだと私は感じます。卑怯かどうかは、一切問題にせず、そういうことをいう人間は鼻先で笑い、すべてをコスト計算で踏み越えていく。それが卑怯者の多いエリートやその追随者には痛快なのでしょう。しかし私は、逆に、卑怯かどうかは、経済的に非常に重要だと考えています。というのも、卑怯者は何も生み出さないで、盗むばかりだからです。誰かが創造性を発揮して価値を生み出さなければ、経済は維持できません。(168〜9頁)」
 
 その池田氏はブログで次のように断言している。「福島原発事故は命の問題ではなく、純然たる経済問題なのだ。経済問題と考えると、農産物の年間出荷額が2400億円の福島県で5兆円もの賠償を東電が行なうのは、どう考えても過大であり、数兆円もかけて除染を行なうのは税金の浪費である」と。池田氏は「純然たる」経済問題だと自らに言い聞かせて、葛藤から自由になる手法を身につけている。ここまでくれば、経済合理性を追求する余り、狂気の沙汰に至った言説だと言うほかない。
 
 なぜ人間はかくも合理的な愚か者になりうるのか。
経済合理性の人間社会への力ずくの押しつけが、私たちの生の複雑さや豊かさを平準化し、社会を理解するために必要な「正義」や「倫理」を、経済学者や専門家から根こそぎ奪い取ってしまったからである。

 私たちの生は市場ではない。同様に、意識もまた市場ではない。経済学という閉ざされた世界の中で、現実離れしたモデルを作って、お互い持ち上げたり、けなしあったりしている池田氏やその取り巻きは、私にはゲームに興じるこどもにしか見えない。経済産業省の言いなりになって、原発を海外に輸出しようとしている日本政府も同じ穴の狢である。これだけの事故を起こしたにもかかわらず、何もなかったかのように思考し行動する。あるいはこれまでの体制をいっそう強化することに血道をあげる。今後、一体何基の原発が事故を起こせば彼らは覚醒するのだろうか。

 フクシマ以降、私たちが生きている世界に課せられた最大の問題は、私たちの子孫が荒涼たる環境の中で暮らしている、あるいは暮らせなくなっていることを想像して、それでも良心の呵責なく生きることができるのかという倫理的な問題なのだ。池田氏は倫理や正義を空想だと言う。なるほど倫理も正義もそして怒りもモデル化できない。しかし、厳然として存在する。そして、それこそが歴史を動かす原動力となってきたのである。倫理と正義を希求するすべての人に本書を勧めたい。
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60 人中、52人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By たつなり トップ500レビュアー
原発危機をひとつのとっかかりとして、欺瞞なり詭弁なり、もっといえば
サブタイトルにあるような傍観者の論理であったり、著者のリストでは、
20にわたる東大話法の規則を原子力村の権威の文章を引用して
存分に論じた一冊で、感心して通読しました。

何よりも自身が東大に職を得ておられるのに、このような
痛烈な批判の書をものし、舌鋒にはいささかの緩みもないのに
偉ぶったところがないのです。
感情の爆発ともいえるところは私の気づいた限りでは一カ所くらいで
きわめて辛辣かつ適切な論争を重ねておられました。

生きた論争の教科書として広く読まれることを。
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