この本は現代のマクロビオティック界の重鎮である久司道夫氏が、桜沢如一の陰陽無双原理に基づいて原子転換にまつわる現象を解説したものと言えるだろう。
その語り口はソフトで、初めてこうした世界に触れる人には新鮮で理解しやすい著作といえる。しかし、そこに取り上げられている原子転換の問題についてはおおらかに受け取ることのできない記述が散見される。
本書の第2章以降において、著者はルイ・ケルヴランの生物学的元素転換、桜沢如一がみずから行なった放電実験、そして最後には水野忠彦教授の常温核融合を取り上げている。これらの実験と理論を全てPU原理に基づく陰陽のまな板に並べること自体、少し問題がありはしないだろうか?
また植物のクロロフィルに含まれるマグネシウムが動物の体内ではヘモグロビンの鉄に転換されると主張しているが、これはマグネシウムと二つの酸素が結合することによって生じるという。しかしそれではニッケルが生じることになるのだが、「1秒以内にニッケルからコバルト、そして鉄に転換する」といともたやすく述べている。いったい何を根拠にそのような多段階の核反応が生じるのか、その実験的・理論的根拠はひとえに元素の陰陽だけである。これではマクロビオティックの信者さんしかその言葉を信じることはできないだろう。
ケルヴランや常温核融合を権威主義的に利用することでは道は拓かれない。むしろいまなお研究を続けている人間にとっては迷惑な著作である。