本書のように,原発の技術的問題を一般向けにわかりやすく,それも政治的な色づけなく書いた本は意外に少ない.原子の構造から,原子炉の構造,運転,安全性,リサイクル,廃棄物問題,そして政治的問題まで,幅広く書かれている.技術的な内容はかなり詳しいが,必要に応じてかなりかみ砕いてあるので,高校初級程度の物理化学の知識があれば容易に理解できる.
著者は東大工学部卒,東京電力入社後,原発所長,重役まで勤めたエンジニアである.その点,一貫して「体制側」に身を置いた人物なので,それなりのバイアスを危惧したが,これは全くの杞憂であった.エンジニアとしての完全に中立な立場から,客観的に原発のプラス面,マイナス面,現状が淡々と,理路整然と述べられている.原発をもっと作れとも,止めろとも言っていない.それを判断するのは読者である.読み終わって,自分なりに考えることができる知識が身についたように思う.
純粋に原子力発電の基礎を勉強したいという目的にはもちろんのこと,「原発賛成」「原発反対」いずれの立場の人にとっても,客観的,科学的な議論をする前提知識を得るために好適な教科書だと思う.