本書は大変よく詳述されており、物語性、読みやすさ、そして注釈とも、もちろん理解度は個々人に依存しますが、訳者は素晴らしい仕事をされたと思います。さて、釈尊の教えを、私なりに理解する所では、大きく以下の三つになろうかと考えます。1)ものには実体はなく、すべては移り行く、2)すべては因果により起こる、そして3)無執着と涅槃への解脱の意義、です。本書のストーリーにはこれらすべてが内包されており、釈尊の語られたことはまさしく真理であると頷けます。とはいえ、私にはどうしても腑に落ちない事があります。本書にあるような、とてつもなく恐ろしい経験(これは意識による実体のないものなのですが)を経ずには、死後、果たして”解脱”できないのであろうか、という事です。すなわち、釈尊もやはり同様の経験をされ、それを悟られたのちに、”もはや解脱=輪廻転生することはない”とおっしゃったのか?もしそうだとすれば、解脱から涅槃へのまさしく方便として、上記3点を衆生に説いてきかせた理由が容易に理解されます。”私が悟ったことをみなに説いても誰も理解できまい”として、釈尊は当初、自身が悟られた“真理”を下々に説くことを確かに拒否されました。一転してそれを説かれるようになる経緯は、原始仏典にかかれてあるとおり、神の説得を諾されてからです。本書にあるような過程を、真理への過程でご観覧されたのだとすれば、私ども凡人の到底理解するところではないという釈尊のご判断は正しかったのです。泰斗中村元先生が推薦文を付与されたという事実は、本書の明々白々な意義を呈示しています。が、しかしながら、釈尊が悟られた”真理”と、本書にあるそれとの間には、私が埋め得ない“ギャップ”が厳然とあり、それ故に“腑に落ちない”のです。いずれにせよ、私自身のさらなる学究が必要なことは確かです。