舞台はナチに包囲された第2次大戦中のレニングラード。
あの、“スターリングラード攻防戦”です。
平和な時代に生きるボクたちの価値観など
通用しない世界が展開しています。
冒頭からすきっ腹を抱えた主人公たちは戦利品を求めて、
ドイツ人の死体に群がりますが、
そんなのは序の口です。「尊厳」などという言葉は、
絵に描いた餅に過ぎません。
けれど、残酷さを売りにしたり、
ただただ戦争の悲惨さを押し付けてくるような小説とは
ひと味もふた味も違います。
明日をも知れない命だというのに、
主人公は自慰のネタに夢中になったりしますし。
主人公の相棒はその場の空気を全く読まないヤツで、
まるで文学の主人公にでもなったように振る舞います。
こうした、物語全体をおおう「達観」とは違う
しびれたような笑いは、
苛烈な状況を中和するための装置のようにも働いているのですが、
どんな状況でも泣いてばかりでは生きられない、
人間の生々しい“生”を、見事に捉えていると、
ボクは受け止めました。
確かに、このくらい図太くなければ、この時代を生き抜くことは、
できなかったでしょう。
それから、たとえ戦時下でも、社会の構造や
個人のパーソナルっていうヤツは、
増幅されるだけで、変わりはしないんだなあ、って、
ボクは感じました。
とにかく、かつてない読書体験ができる小説です。
ラストは感涙ものです。
ぜひ読んでいただきたい。
【追記】
この小説を読んで
旧ソビエトの近代史に興味をもった方には、
島田荘司の「ロシア幽霊軍艦事件」をお薦めします。
ただのトンデモ小説ではありませんよ、
史実と虚実を緻密に積み重ねて、
見事にオオボラを信じ込ませてくれます。
この小説に対する理解も深まりますよ。