作品全体としては、わざとらしい盛り上がりも無く、淡々と進行していく。主人公の博士は、事故の後遺症で記憶が80分しか持続しない。それでも、人は、一日一日を生きていくことが出来る。その時々の感動や驚きを味わうことが出来る。そして、周囲の人々の尊敬も得ることができるし、その人々の記憶にも忘れられない思い出として長く存在することが出来る。人間は漠然と自分の目の前の生活が永遠に続くというような錯覚?を持ってしまいがちだが、ここにはそういうことを日常的に感じることが不可能な、しかしある意味非常に豊かで意義深い一日一日を送っている人がいる。人間は、「今ではないいつか」に憧れる生き物だ、という考え方があるが、この作品で描かれる博士は、いったい今ではないいつかに憧れることがあるのだろうか。その一方で、周囲の人々、特に少年ルートは成長の過程で、博士の大きな影響を受けて、とても優しく深い人間へと成長していくのだ。表現はとても静謐であるが、人という生き物と、時間というもの(概念?真理?)との関わりをもテーマとした、非常に感慨深い作品であると思う。また、数学教師となったルートの授業の素晴らしさ!このような授業がこの世に数多く存在して欲しいと願ってやまないのである。