家政婦として働く「私」は、ある春の日、年老いた元大学教師の家に派遣される。彼は優秀な数学者であったが、17年前に交通事故に遭い、それ以来、80分しか記憶を維持することができなくなったという。数字にしか興味を示さない彼とのコミュニケーションは、困難をきわめるものだった。しかし「私」の10歳になる息子との出会いをきっかけに、そのぎこちない関係に変化が訪れる。彼は、息子を笑顔で抱きしめると「ルート」と名づけ、「私」たちもいつしか彼を「博士」と呼ぶようになる。
80分間に限定された記憶、ページのあちこちに織りこまれた数式、そして江夏豊と野球カード。物語を構成するのは、ともすれば、その奇抜さばかりに目を奪われがちな要素が多い。しかし、著者の巧みな筆力は、そこから、他者へのいたわりや愛情の尊さ、すばらしさを見事に歌いあげる。博士とルートが抱き合うラストシーンにあふれるのは、人間の存在そのものにそそがれる、まばゆいばかりの祝福の光だ。3人のかけがえのない交わりは、一方で、あまりにもはかない。それだけに、博士の胸で揺れる野球カードのきらめきが、いつまでも、いつまでも心をとらえて離さない。(中島正敏)
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最も参考になったカスタマーレビュー
18 人中、17人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
謙虚であること、優しくあること,
By 家庭教師 (兵庫県) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 博士の愛した数式 (単行本)
小説を読むことは、想像力を鍛えることだと思う。80分で記憶が消滅してしまうという現実があるのか。 あるとすればそれは、どれくらいの苦しみなのだろう。 そういった苦しみを持っているからこそ、 人に、あらゆるものに対して優しくなれるのだとしたら、 健常であるということで、謙虚な気持ちを忘れてしまうのだとしたら、 そのこと自体、どれほど罪深いことだろうか。 博士がプレゼントを受け取るシーンは、 自然と涙があふれた。 こんなふうに、深い感謝で 「受け取る」ことのできる人になりたいと思う。 そして、人にものを教えるという仕事に就く者は、 同時にものを教えられているのだということを いつもいつも忘れないでいたいと思う。
29 人中、26人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
静かで暖かい小説,
By
レビュー対象商品: 博士の愛した数式 (単行本)
とても静かで、哀しくて、暖かい本でした。80分しか記憶の持たない「博士」と、そこに家政婦として通うことになった私、ルートと呼ばれる阪神ファンの私の息子の三人の日々が描かれています。 小説内にいくつもの数式や、証明といったものがでてきますが、数学のことをほとんど覚えていない私でもそれが全く邪魔にならず、むしろ美しいものとして感じられました。 読みすすめていくうちに、どんどんと、どこかとても居心地のいい場所に閉じ込められていくような、澄んだ水を覗き込むような気持ちにさせられていきました。 読み終えた時に、ゆっくりと暖かい気持ちになれる、少し前向きな気持ちで明日からやっていこうと思う、それが小説のもつ絶対の力であると私は思っていますが、この本にはそれがあふれていました。
26 人中、23人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
数学の料理法に「巧」です!,
By
レビュー対象商品: 博士の愛した数式 (単行本)
数学を題材として,こんな話を書き上げた作者のすごさに感服。博士の専門は,数学の中でも数論でした。素数,完全数,そして友愛数。難しい数式を使わずに,数の間の不思議な関係を語ることのできる分野。作者の題材料理のセンスを感じます。そしてもうひとつ。後半の重要なシーンで,ひとつの有名な式が出てきます。 e^{πi}+1=0 実軸の基準としての1。虚軸の基準としてのi。三角関数の重要定数であるπ。指数関数の重要定数であるe。そして,それらのすべての基準である0。全く共通点を持たないこれらの4種類の数が,すべて重なることで「0」という調和を得る。 作中でも,家政婦の主人公が図書館でその意味を頑張って明らかにしていくのですが,難しい話抜きで「この式の意味=博士が言いたかったこと」が伝わっているのではないでしょうか。 物語の内容にはあえて触れませんでしたが。ラスト付近で,家政婦の一人息子であるルートくんの進路を読んだ時点で,ジーンとさせます。
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5つ星のうち 5.0
読み終わってから思い出し泣きする作品
80分しか記憶を持たない博士と、そこに勤める家政婦とその息子ルートの交流を描いたお話。... 続きを読む
投稿日: 3か月前 投稿者: 薫子
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