「博士の愛した数式」は映画にも漫画にもなったが、このラジオドラマのCDもなかなかいい出来だ。原作でラジオの野球実況放送に博士、ルート、私(家政婦)が耳を傾ける場面に何とも言えない幸福感が漂うのだから、原作とラジオドラマの相性は悪くない。CDへの収録時間は80分弱。これは博士の記憶が80分しか持たないことに合わせたものだろう。原作のうち省かれた部分があり、原作にない台詞を追加したりしているが、小説の主要なポイントは外すことなく、数学の美しい秩序を反映した原作の静謐な世界をきちんと再現している。博士へのプレゼント等の点で、脚色は映画よりも原作に忠実だ。
出演は、柄本明(博士)、中嶋朋子(私)、武井証(ルート)ほか。声の芝居に情感がある。ラジオ放送だけでなく、博士たちが出かけた92年の野球場(阪神の試合)のどよめき、博士の家の時計の時を刻む音等の効果音も暖かさと静かさを演出する。亀井つとむ、八木裕も客演しているのが嬉しい。
音を通じて想像が広がるラジオドラマの、映画とは異なる魅力を再発見できる、聞いて心がいやされる佳作だ。