馬琴は、この作品を48歳から76歳までの28年をかけて執筆した。全部で98巻106冊にも及び、日本古典文学では最長の作品でもある。彼は執筆途中に失明し、息子の嫁のお路に口述筆記させて完結にこぎつけた。
舞台は、室町時代の中ごろ、現在の千葉県の南端、安房国。領主・里見義実の娘、伏姫は、かつて義実によって処刑された悪女・玉梓(たまづさ)の呪いによって、飼い犬の八房と夫婦になり山の中で暮らすことになった。
ある日、伏姫は仙童に「八房の子をはらんでいる」と告げられ、身に覚えがないと思い詰めて自害。そのとき、伏姫が持っていた数珠のうち「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の文字が浮き出た8つの大玉が空高く飛び上がり、散り散りになり遠く飛び去っていった。
やがて関東各地に犬で始まる名を持ち、八房のように身体に牡丹のアザがあり、8つの文字の玉を抱く若者が生まれる。彼らが八犬士である。別々の場所に生まれながらも伏姫につながった宿縁に導かれ、玉梓に呪いをかけられた里見家を救うべく数々の困難に立ち向かっていく。この長大な雄編を、平岩弓枝は、八犬士が全員そろうところまでを集中してまとめた。それ以後の展開はあとがき風に軽く触れられている。
馬琴「八犬伝」の複雑怪奇な因果応報の法則や、悪霊化け物毒婦たちの跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)、といったエッセンスはしっかりと凝縮されている。江戸時代の読物といって侮ることなかれ。そのエンターテイメント性たっぷりのストーリーテリングは、時を越えてまだみずみずしさを失っていないのだ。(文月 達)
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