タイトルと表紙でかなり損をしている感があるが,本作は紛れもなく本格ハードSFである.しかも,ここ10年くらいを見渡しても,この分野で本作に匹敵する作品を挙げることはできない.
最近は2年ばかり「ハードSF」に値する作品に当たらず腐っていたが,一気に解消した.個人の感想だが,読後の爽快感は「創世記機械」「夏への扉」に匹敵する.
ハードSFの定義についてここでくり返す愚は犯さないが,科学技術のバックグランドをストーリーへと結びつける巧みなアイデアは野尻作品の面目躍如.これはA. C. クラークやJ. P. ホーガンの(初期の)作品群にも通底するものがある.また多くのハードSFと同様,本作も科学者,技術者達が主人公であるのが嬉しい.
一見して無関係なオムニバス形式の連作と思いつつ読んでいくと,それらが最後に壮大なストーリーへと昇華する.伏線の回収も見事な一冊.
是非,高校生までの若い人に読んでもらいたい.その後の人生を方向付ける一冊になるかもしれない.
難点を言えば,所謂「楽屋オチ」が,それを知らない人にどう取られるか,という点だが,長門有希もゾラックも知っている私に隙は無かった(笑).その意味では胸熱の一冊でもある.