『南方熊楠全集(全10巻別巻2)』や『南方熊楠選集(全6巻別巻1)』を出版している平凡社の力の入れようが感じられる内容でした。1941年に逝去した南方熊楠の没後70年記念出版ですから尚更です。
「別冊太陽」自身が72年に第1号を刊行してからちょうど40年目にあたります。副題にあるように「森羅万象に挑んだ巨人」南方熊楠の全容をしっかりと捉えるべく、多くの知識人を動員して各方面から果敢なアプローチが施されてありました。写真、図版、自筆のノートや書簡がふんだんに掲載されていますので、南方熊楠の初学者は勿論、これまで熊楠の業績の跡をたどった人にも十分満足いく内容でしょう。
執筆者であり監修者の中瀬喜陽氏(南方熊楠顕彰館館長)の「熊楠のいる風景」で大まかな人となりが伝わってくるでしょうが、本書の各方面の業績の凄まじさにはあらためて驚かされます。
「エコロジー」の観点から熊野の森の樹木伐採に反対し続けたわけで、時代が100年経った今日、その先見性に感心するばかりです。明治42年(1909)に「神社合祀反対運動」を起こしているわけで、植物保護を訴える彼の行動力は21世紀の今日にも必要な考え方なのは間違いありません。
豊かな自然界に生息する粘菌の変形体も14ページの写真で理解できますが、生物学や植物学、民俗学の各分野にこれだけ膨大な功績を残した人物もいないでしょう。
熊楠のデビュー作「東洋の星座」が掲載された科学雑誌「ネイチャー」の1893年10月5日号も図版として紹介してあり、その後イギリスにおいてどのような関わりを持ったのかも48ページ以降に詳述してありました。
これまで価値ある多くの出版を果たしてきた「別冊太陽」シリーズですので、内容の確かさは折り紙つきでしょう。コラムも充実しており、掲載されている21本もの物珍しい記述が本書の価値を高めていました。