日本軍が迫る1937年の南京で、案全区の責任者となった著者が何を体験したか克明に書かれています。 フィッチの日記や「南京事件の日々-ミニー・ヴォートリンの日記」(大月書店)と比較すると、リアルタイムで書かれていることと その緻密な観察力・文章力という面ですぐれています。 情報収集力という面でも、案全区の責任者という立場から正確で大局的です。 しかしながら、日本語翻訳の「南京の真実」にはその価値を半減する多数の誤訳、誤解を招く加筆、ことわりのない本文の削除、割愛などがあります。 たとえば、犠牲者数を「われわれ外国人はおよそ五万から六万人とみています。」(P267,P317)とありますが、「外国人」ではなく本文には「ヨーロッパ人」とあります。他の資料との関連から不審に思い原書を調べて誤訳がわかりました。 また、「この人たちの最大の希望は、私が「外国の悪魔」日本兵という悪霊を追い払うことなのだ。」(P122)という個所は「「外国の悪魔(西洋鬼)」である私が悪霊(日本兵)を」とすべきところを 初歩的な文法について誤っています。この個所の内容は重要ではありませんが、初歩的な格変化を見誤るようでは不信感をもたざるをえません。 他にも多数の誤訳や不適切な翻訳を見つけましたが、さらに梶村太一郎氏によって「週間金曜日」No198(1997年12/5号 P26-27)の「ゆがめられたラーベの人物像」の記事で誤訳が紹介されています。 以上のような理由で、資料としてこの本の訳を用いることはおすすめできません。研究や勉強で引用するときは、ドイツ語原書か 英語版を使わざるをえません。 翻訳者は専門家としてプライドをもって仕事をしていただきたいと切に願います。