清冽かつ理知的、明晰で的確な表現で知られる著者が、子供たちに向けて初めて書いた本。ということは、「子供向きの童話だろう」と思って読み始めると、それは嬉しい誤解だったことに気づく。舞台は南の小さな島。主人公の少年は、精霊が引き起こす不思議な事件に巻き込まれたり、友達のために胸がどきどきするような冒険をしたり。自然だけでなく、人の優しさも心も豊かな島で、少年(もしかしたら島一番の理性派。ここがやはりこの著書の主人公らしい。)と、島にやって来た不思議な人々に、やたらに暢気な島の住人たちとの出会いを綴った十の物語。読み始めてすぐ巧みなストーリーに引き込まれ、南国の花と果実の匂いの混じった濃厚な空気や高い山に吹く澄んだ透明な風、日向の乾いた太陽の匂いを深呼吸しながら読み進んでいくと、読み終わる頃には干したての布団にくるまっているように心がほかほかしている。 日々の生活に心がちょっと疲れた時に効くビタミン剤。年に一度は読み返している。