デビュー作「夜市」で注目を集めた気鋭の作家、待望の新作。
日本から遙か南方の島、「トロンバス島」とその周辺を舞台にした全7編からなる連作集。
それぞれの物語は独立しているものの微妙にリンクしており、読み通す内に奇妙なビジョンめいた「異世界」が次第に息づき始める・・・。
「不思議な心地良さ」、これが正直な感想ですね。
ただ、一から十まで全てに説明がつくような作品ではないことや作者のこれまでの作品以上に「ホラー色」が希薄なこともあり不満に思われる方もおられるかも。
私も最初の数編を読んでみて、つながりが見えてこないことやオチらしいものが提示されないことにとまどいを感じました。
しかし読み進める内に「物語の枠組」に捉われないところにこそ面白さがあるように感じられ、後半はどんどんと引き込まれました。
恒川氏の作品の魅力は現実の視点をわずかにズラすことで生じる「異世界」を鮮やかに提示して見せる点にあると思います。
これは基本的にホラーの手法だと思うのですが本作では「恐怖」という切り口にこだわることなく幻想的な世界の構築に挑戦。
南洋の濃密な自然やそこに息づく奇妙な生き物たちの気配をまとって物語は常識だけでなく次第に時空すら超越したものに。
かと言って無駄にスケールアップした「神話的」なものにはなっておらず、微妙なところで我々の「リアル」との接点をキープしております。
その結果として幻想的なお話でありながらも不思議に身近に物語が感じられ、これまで以上に独特の世界を描くことに成功していると思います。
ただ甘いだけではない「楽園」の姿は逆にとても魅力的に映ります。
読めばこの夏は南に出かけたくなる・・・そんな一冊でした。